【詩】砂海の塔

黄金の光線が照らす地
頼りなげな赤子の塔は
砂塵に塗れ

栄え繁った突起物たちも
散り砕けて細粒子となり
砂の海中へと同化しゆく

天地は明滅を繰り返し
代謝の末に
新生代を待つ


(詩/早乙女ボブ)

【詩】里程標

髭が生えてきたことに
気がついた日の
髪が減ってきたことに
気がついた日の

鏡の中で出会う
終着へと向かう
その地点に


(詩/早乙女ボブ)

【詩】小樽

丘を登り
坂を降り
知る人もなく
岸壁に腰掛けて
潮の香を発する
黒い塊は
街の光に
起き伏して


(詩/早乙女ボブ)

【詩】底

赤茶けた灯の下
時の針をやり過ごす
小さな町のくらい家
目と目は赤く滲み
肉体はふくれ続ける
煮えたぎる窯のふちで
堕ちないように
堕ちないように、
やじろべえの夜


(詩/早乙女ボブ)

【詩】あわいねがい

やさしいひとと
やさしいごはんを
たべたい
場所はどこでも
いいのだけれど
たとえば
住宅街の片隅に
ひっそりとある
ちいさなレストラン
キャンドルの揺れる
窓際のテーブルで
家庭的なディナーをたべて
まろやかなワインをのんで
何か
やさしい出来事を
ゆっくりと語り合う
けっして
戦争や
殺人事件や
芸能人のゴシップや
政治家のスキャンダルなんて
そんなものは
ちらとも出てこない
そうしているうちに
もう
まったく
やさしいきもちになって
ただただ
この時が
いつまでも
続くようにと


(詩/早乙女ボブ)

【詩】猫背の太陽

僕も君も
毎日大変で
もやもやたくさん
でも今は
吹き飛ばすような
笑い声
笑い顔
生ビールと
串カツ、串カツ
駅の改札でさよなら
またねと言って
後ろ姿は
少し猫背

(詩/早乙女ボブ)

【詩】死んだことある?

【死にログ】
ジャスパー墓子さんのレビュー
評価★★★★☆

友達にすすめられて、ついに……!
逝ってみました!
最初はすごく苦しくて、
「やっぱやめれば良かった」なんて
彼氏もグチグチいってたんですけど、
結果的には大成功!
ふたりできもちよくなれました~。
星五つにしたいところなんですけど、
三途リバーのスタッフさんの態度が
ちょっと嫌なかんじだったかな?
でもでも!気持ち的には★★★★★
ですっ☆ミ

僕があまりに
辛気臭い顔して
不吉な話ばかり
するものだから
そういうこと言ってると
ほんとに死んじゃうよ?
友人にひどく心配された

ものすごいことなのだけれど
『死んだことのある人はいない』
それはまったくもって
おそろしくもあり
なんとかしたくて
ご先祖たちは
宗教を作った
のではないだろうか
百年くらい経ったら
死の不可思議さは
完全に解明されて
パスポートがあれば
逝ったり来たり自由自在
そんな時代が来るのかもしれない

しかし
どんなに文明が進んで
死の恐怖から解放されても
生きることへの恐怖
存在することへの不安
失いたくない気持ちは
尽きることがないだろう
いつの時代も
多くの人々が
明日を思って眠れずに
布団の中で震えるしかなくて
そう
今のこの
僕みたいに


(詩/早乙女ボブ)

【詩】詩汁

切り離されて
固まりきった想いが
ぎゅっと
ドリップされる
肉と骨は痺れ
視界もぼやけている
が、
エキスは指先から
ぽたり、ペンを伝い
文字を造り
詩を描く

(詩/早乙女ボブ)

【詩】忘失郷

わたしには
ふるさとなど
ないのですから
きっぷの流れる日
おし合いへし合いに
巻き込まれる心配は
ないのでございます

ふっと窓の外を見れば
青すぎるほどの
青空


(詩/早乙女ボブ)

【詩】蟻

こんなしょぼくれた
木造アパートの一室に
這い込んできたりして
一体どうしたのですか
残念ながら
ご覧の有様なので
何もお出しできません
屋根と壁はありますが
それとてもただ
あるというだけでして
出入り自由でぺらぺら
穴だらけの板なのです

それでも
激しい嵐の日を
生命を持つ確かな存在と
共に過ごすというのは
心強いものがあります
強風に部屋は揺れ
天井からは
雨水が滴り落ちて
この世界が
崩れ去るのであれば
いったい何処へ
逃げたらいいのでしょう
これほど小さな
あなたと
わたしは

(詩/早乙女ボブ)

【詩】常夜灯

あの家
あのアパートの
部屋に
廊下に
ほのかに灯る
オレンジの光
そこには
ふかふかの布団
やさしい毛布
いつもの枕
いつかは僕も
暖かい灯のもと
何の心配もなく
ぐっすりと
ゆっくりと
眠れるだろうか
今はこうして
銀色の街灯に
冷えた片頬を
照らされて


(詩/早乙女ボブ)

【詩】フォーチュンクッキー

さくり、
かじってみたら
なんとも苦くて
思わず吐き出した
クッキーのかけら
指先でまさぐると
小さな紙きれ
こわごわ
広げてみれば
ばかばかしいほどの

幸運

つぶして投げて
ぽいっと
フォーチュン
ながれて消えた


(詩/早乙女ボブ)

【詩】ポップソング

昼下がりの教室で
そっと見ている後ろ姿
艶やかに光りを放つ

君のみつあみは
全生物の根本要素

引き寄せ合ったり
距離を取り合ったり
この世界のバランス
ぎりぎりで保っているのは
君のみつあみ
偏在するらせん構造

(詩/早乙女ボブ)

【詩】けのび

夜の深いところ
窓から外を見れば
街の灯が
余剰な仕事を
ぽつぽつがんばっている
だがしかし
同型生物の気配は
触角にかからない
いびきひとつ
歯ぎしりひとつ
この部屋まで届かないのは
いったいどうしたことなのだ
もしや
わたしを置いて
みなさん
この街を脱出してしまったのですか
その理由としては
街路樹が臭いとか
歩道が狭いとか
不良が多いとか
色々と思いあたることはある
あるのだけれども
実はこのわたしに問題があるのではないかと
ありえないことではないが
ありえないことではない
ありえないことでは

「わたしの何がいけないのか何かいけないことをしただろうか?」

そんなことを考え始めると
脳内が泥濘に塗れて
神経だけが尖って

じっじじじじじ じじじっじじ
じっじじじじじ じじじっじじ

毛の
のびる音を聴く
これだけがリアル中のリアルなのだ
臭い街路樹とか狭い歩道とかどうしようもない不良とか
どうしようもないわたしとか
そんな些末な諸々は
収納ボックスにぶちこんで
フタッとふたをして
ベッドの下
の奥の奥の奥の最奥に
埃まみれで放置しておけばいい
のではないだろうか
いいじゃないか
もう

じっじじじじじ じじじっじじ

わたしはじっとして
それだけでいて
夜は明ける
なので


(詩/早乙女ボブ)

【詩】D黒A

少女の
ちいさな頭部
から垂れる
  揺れる

 の先端から
産まれ落ちた
甲虫
楕円形として
虹色に耀き
宇宙を夢見る
     一瞬、
記憶が
 (我々は)  (いったい)
 (どこからきたのだろうか)
生意気な者たちの
縄張りに
みちて
 「わたしはいつも」
 「世界の均衡」
 「に、ついて考えていました」
        「ね」「です」
朝食のあと
漆黒の線が
拡大鏡の中
支配して
支配されて
いく


(詩/早乙女ボブ)