【詩】砦にて

紙々を
解いて
積み上げる
指先で
つるつると
薄い薄い
薄さ
が堆積していく
埃が舞う
匂い匂う

ところで
先日同窓会に行ったんですよ
でも結局打ち解けられなくて
そりゃそうですよ
わたし
昔からひとりが好きでしたから

夜の九時
川の畔で
音がする
水を飲む
石を投げ
草を踏み
歩き出す
闇に乗じ
犬が吠え
走り出す
帰宅する
帰宅した
入浴する
歯を磨き
横になる
夢もなく
午前二時頃にふと目を覚まし
再び眠る
枕を噛む
遠い太陽

(詩/早乙女ボブ)

【詩】めりこむ団らん

長男は既に
めりこんで
向こう側へいきました
母と父は
胸の辺りまで
弟は
膝くらい

首を過ぎた私は
呼吸も苦しく
このままでは
いけないと思うのですが
如何ともしがたいという
可動範囲内の
もがきなどは
疲れるだけで
溢れてしまった
あの日に

脱力してみれば
浸された部位は
じんわり暖かく
ひと足早く
緩んで微笑む
構成員の額へ
台所の窓から
傾いた陽が
黒い柱のひっかき傷に
陰を産みなおす

──此処にもかつては
──秒針があったな

見ないふりして
団らんを待ちわびても
私たちは単純に
塊だった


(詩/早乙女ボブ)

【詩】冬の陽射しで人は死ぬ

『冬の陽射しで人は死ぬ』

この、弱々しい
薄黄色の光線は
さらり、
肌に降り注ぐと
階層を通り抜け
奥底でぐったり
凝り固まっている
ぐろぐろの塊を
あまりに優しげに
照らし出す
──なぜ?
遮断主義者には
そりゃ分かるまいよ

(詩/早乙女ボブ)

【詩】月曜日の逆襲

『月曜日の逆襲』

街も家族も
寝静まってる
動画を観たり
飽きたら映画を
足音を忍ばせて
味噌ラーメン
文庫本の山を崩し
暗号を解読しつつ
世界を組み立てる
秒針の揺れは
肌に波紋を生んで
カーテンの隙間に
合図の光線
なんでもない
月曜の朝

(詩/早乙女ボブ)

【詩】ひらめくはた

なだらかな
あの
緑の丘をのぼった
てっぺんに
ひらひら、と
はたはた、と
忙しげな
ひとつの旗
何のためか
誰のためか
知らないけれど
きっと風が
つよいのだろう
逆らいながら
流されながら
やむこともなく
めくり捲られ
はたらき続けている

(詩/早乙女ボブ)

【詩】苔

街を歩いていても
電車に乗っていても
会社で働いていても
何時だって
何処でだって
目は伏せたまま
誰も見たくない
誰からも見られたくない
透明になれればいいのに
日陰で音もたてず
古い木造家屋の裏手に
ぽつんとある水場
蛇口の縁に
バケツの底に
排水溝の隙間に
こびりつくだけ
お願いだから
どうか強い光は
当てないで
あっという間に
枯れてしまうから

(詩/早乙女ボブ)

【詩】ほしがり

お父さんのもの
お母さんのもの
お爺ちゃんお婆ちゃん
はては誰のだか
分からないものにまで
ぐりぐりと名前を書いて
「わたしのものよ」
舌足らずに主張する
あなた
庭で花火をした夏の夜
たどたどしくも
妙に真面目な顔つきで
暗い地面に名前を刻んでいたっけ
地球まるごと手に入れるのかい?
訊ねてみれば
何故だかちょっと不満そう
「ほんとはね、
うちゅうのぜんぶがほしいの」
あなたがいつか
もっと大きくなったら
ロケットに乗って
きらきらした星々を旅して
立派な名前を書いてくるのかな
もう夜も遅くなったね
おやすみ

(詩/早乙女ボブ)